第5章 帰還と躊躇

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 ・・・君。君って言った。あれ?怒ってないのかな。うーん・・・それはそれで何か薄ら寒いぜ。  滝本はいつもの通りに見えた。  柔らかい気配で、真っ直ぐに立っていた。  あたしは黙ったまま、ソファーにブルゾンを置いて部屋を見回す滝本を見ていた。 「俺が居ない間に電話があったな」  あたしはまた驚く。・・・どうしてそれを知っているの、この男。  滝本は横目であたしの驚きを確認して微かに頷いた。 「その顔は、当たりか。電話か訪問だっただろうと思った。でも俺の部屋にくる人間なんてそうそう居ないし、大体その人間が君に何らかの影響を与えるとは思えない。だから、電話だろうな、と」  ・・・何て正直に反応してしまったんだ、おバカなあたし。思わず唸る。  自分で確認するように淡々と滝本が話す。 「電話があった。君は動揺した。そして俺の部屋から逃げ出した。姿が見えなかったからそんな所だろうと推測して来てみたら、君の家の明かりが消えたところだった。だから―――――」  こちらに向き直った。 「・・・下で待ってたんだ。えらく綺麗に片付いてるな。長い間留守にするのか?」  あたしはため息をついて、頷いた。 「・・・そう。ちょっとの間、旅行に出ようと思って」 「今から?こんな時間じゃ交通機関はすぐに終わるぞ」 「えー。取り合えず、今晩はホテルに泊まって、明日本格的に・・・」 「ここから逃げるつもりだった、んだな」  言葉の後を引き取って言い当てられてしまった。  あたしはどうにでもなれの心境で窓際まで行ってカーテンを開け、そのままあぐらをかいて床に座る。 「一体何の電話だったんだ?」  悩む。どうしよう・・・。ここで全部話したって、仕方ない。あくまでも旅に出るつもりだったって強調するか?  そして何とか今晩は滝本をやり過ごし、明日になったら堂々と姿を消す?  真っ直ぐにあたしを見る滝本の視線を感じる。  ・・・あたしに出来るだろうか、この男を丸め込むなんて芸当が・・・。  速攻で打ち消した。  無理。むーりー。そんな事が出来るくらいなら、今晩だってちゃんと逃げ切れてたはずだ。  一人でぐだぐだと突っ込んだり打ち消したりしていたら、滝本が近づいた。  同じくしゃがみ込んで、あたしの顎に手を添えて強引に上を向かせ、視線を合わせた。
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