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だから、あたしが岡崎さんのカフェのために鈴木の依頼を受けたことは知っていたのか。
「だから、大人しくしていただろう、お前が戻ってくるまで」
君からお前になってるよ・・・。折角怒ってなかったのに、怒りを思い出したのか?
あたしは恐る恐る滝本を見上げる。
「・・・大人しく?」
滝本が口元を歪めた。どうやら笑ったつもりらしい。
「あくまでもお前を取り返す為に暴れることだって出来たってことだ。だけどそうしなかった。何か理由があるらしい、それはこれに仕掛けてあるらしい、と辞書を見て判ったからな」
・・・暴れる。それは、ちょっと、見てみたかったかも・・・などと思ってしまった。だけど、そうなっていたら勿論最悪なことが起こっていたはずだ。自重してくれて助かった。
「何回か、あの店に行ったし、経営状態やその他調べてみた。漬け込まれるところは少ない良好な状態だとは思うが、やり手の何でも屋が本気になったら潰すのなんか簡単だろう。それでもある程度の防御は固めておこうと思ったんだ」
「え?」
あたしは固まった。滝本を見詰めていた。
・・・防御を固める?お店を調べた?鈴木から守るために?
―――――――・・・あたしの為に?
呆然とするあたしの前に腰を落として座り、滝本が言う。
「守るよりも、攻撃する方が楽だし方法がいくらでもある。だから、鈴木といった男に関して調べてたんだ。写真がないし、何の情報もなかった。だけどお前を迎えに行った時に本人を見たし、部屋の場所も判った」
まだ言葉を出せないあたしはただひたすらに彼が話すのを聞いていた。どれだけ一生懸命になっても言葉を聞き逃しそうだった。
無意識に拳を握り締める。
「あのマンションの部屋は引田勝という名義で借りられている。多分あの男の数ある名前のうちの一つだろうと思ったが、その引田という名前は情報ベースで引っかかった」
・・・と、いうことは。
ということは?あたしは首を傾げる。
ここでやっと滝本の顔にいつもの微笑が戻った。
「あいつの尻尾を掴んだ」
鈴木と名乗る何でも屋の、尻尾を?
ううー・・・あたしは眩暈がして手で瞼を押さえた。情報量が膨大で、頭はパンク寸前だ。
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