第5章 帰還と躊躇

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 静かな目をしている、その瞳をずっと見ていた。 「・・・すぐに、一人になりたがる。誰も信用しない。敢えて孤独を選ぼうとする。全部抱え込んで、そのまま遠くまで逃げ出そうと頑張る」 「・・・・」  見てられなくて、パッと視線を外した。  するとつかんだ腕をゆっくりと引き寄せて、滝本があたしを抱き締めた。 「―――――」  あたしは言葉を失くす。  頭の上で、彼の声が聞こえた。 「そろそろ、俺を認めてくれないか?」  滝本の胸に顔を押し付けられたままであたしは目を見開く。  呼吸まで、忘れてしまった。  ・・・俺を認めて・・・って、言った?今?  滝本が・・・? 「体だけじゃなく、心も開いてくれ。全面的に人に頼れない性格なのは判ってる。・・・だけど、一部でもいいから、俺を受け入れてくれないか」  あたしはそろそろと手に力をいれて、彼の胸から顔を上げる。  間近で見る滝本は真面目な顔をしていた。  いつもの微笑も、からかいも、呆れた気配も何もなかった。  あたしは指で彼の頬を触る。その指先に彼の体温。  ・・・幻じゃない。  まだあたしの体にまかれているのは、本当に滝本の腕なんだ・・・。 「・・・あたしは・・・」  掠れた声がでた。だけどそのまま話を続けた。 「・・・犯罪者、なのよ。でも、あなたはそうじゃない。・・・一緒にいたら・・・また今回みたいなことが起こるかもしれない。それが嫌なのよ」 「・・・だからまた、俺から逃げる?」  声が低かった。回されていた腕の力が緩んだ。 「―――――あたしは普通の社会人にはなれない」  滝本が頷いた。 「・・・そうだろうな。それは判る。俺はお前を変えたいんじゃない」 「どういうこと?」  あたしから完全に腕を離して少し距離をあけ、滝本は顔を下に向けて息を吐いた。 「ここ1年の状態でもいいって言ってるんだ。お前の指を折ることは出来ない。お前はスリを止められない。だからせめて俺の事務所でだけ使ってくれ。そして、黙って消えるな。それをされると守りたくても守れない」
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