第6章 冬から春へ

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「ふむ。・・・それで?」 「あたしは断った。だけど、諦めてくれなかった。だから姿を消そうと思ったの。もう何かを質に取られて仕事をするのは嫌だったし、とにかくあたしが居なくなれば岡崎店長のカフェだって何も起きないでしょ?」  滝本は天井を見上げて考えながら答える。 「・・・まあ、そうだろうな。あの店そのものに恨みでもあれば別だろうが、でなければ一々面倒なことはしないと思う」  良かった~、とあたしは声を弾ませながらころころとベッドの上を転がる。 「で、次にまたヤツが何か言ってきたら、あなたが何とかしてくれる」  のよね?と滝本を見上げる。  ヤツは何かを考えているままで頷いた。・・・・おいおい大丈夫か?ちゃんと聞いてる?  あたしが若干不安になって寝転んだまま見詰めていると、滝本はゆらりと立ち上がってシャツを着だした。 「・・・お帰りですか?」  あたしの言葉に振り返り、さらりと言った。 「今日は月曜日。もう朝の7時半。仕事だ、仕事。君も起きろ、事務所で説明するから一緒に来るんだ」  ・・・・ええええー(泣)  どうしてよ~・・・だからあたしは一般人とは違うんだってば!  あたしがベッドの上で盛大なブーイングをかましている間にも滝本はさっさと支度をしていく。  寝室のドアを開けながら背中越しにチラリと視線をやり、あたしを脅した。 「早くしろ。5分以内に台所まで来なければ、麻薬漬けにして夜専用の女にするぞ」  ―――――――何だと!??  開いた口が塞がらない。  固まるあたしを置いて、滝本はいってしまった。 「・・・鬼畜かあの男っ!!」  だけど実際にやりそうだ。有言実行という点においても、あいつは信用がある。  そんなわけで、あたしはバタバタと服を着て台所までダッシュする羽目になった。  台所でコーヒーを淹れながら、滝本が振り向いてにやりと笑った。 「3分。やれば素早く出来るじゃねえか。コーヒー飲むか?」  あたしは引きつった笑顔でヤツを睨みつけた。  久しぶりの調査会社の事務所に着くと、あたしはつい立ち止まって古いドアを眺めてしまう。  初めて滝本につれてこられた時、このドアに仕掛けられた盗撮カメラで写真を撮られ、それをネタに自己紹介をさせられたんだった。
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