第6章 冬から春へ

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 そう考えるとあまりいいドアではないが、今は懐かしさすら感じる。 「おはよう」  滝本が声を掛けながら入っていくのに、付いて入った。 「おはようございます。あら―――――」  滝本に挨拶をした湯浅女史が、後ろについてきたあたしに気付いて微笑んだ。 「お久しぶり、野口さん。髪切ったの?」  湯浅女史の声に飯田さんと誉田君も顔を上げる。 「おはようございます。野口さん同伴でご出勤とは、また別件ですか?」 「ボス!はよっす!!ホントですねえ!野口さん髪短くなってますよ!!」  一番奥の自分の机まで進みながら、滝本がそれぞれに返事をする。 「おはよう、飯田。別件と言えば別件だな。何せ私は教育係だから、出入りの職人の世話も焼かなければならないんだ。・・・・誉田、ボスはやめろ。挨拶くらい短縮せずに言え。それと――――――」 「「声がデカイ」」  その場にいた誉田君以外の全員がハモった。  あはははは!とこれまた大きな声量で豪快に笑って、誉田君が言う。 「判りましたー!皆さんタイミングバッチリですねえ!!!」  ・・・だから、声がでかいんだってばよ。あたしは苦笑する。  お茶を淹れましょうと湯浅さんが立ち上がるのを制して、あたしも挨拶をする。 「おはようございます。お久しぶりです。髪、変でしょう。不ぞろいになったから自分で揃えたので」  椅子にまた腰を下ろして、湯浅女史が首を傾げた。 「不ぞろいになったから、自分で揃えた?」  奥の机から滝本が声を飛ばした。 「一昨日まで一緒に行動してた何でも屋に使われてるバカ野郎に殺されかけて、そのついでに髪の毛も失ったらしいぞ」  はい?と誉田君がマヌケな声を出し、湯浅女史と飯田さんが一斉にあたしを見詰める。 「・・・殺されかけた?で、どうしたんですか?」  飯田さんが聞くのに、あたしはもごもごと答える。畜生滝本のバカ!どうしてわざわざ公表するのよ~! 「・・・あー・・・蹴っ飛ばし、殴って、ナイフで切りつけ、暴言を吐いてやりました」  湯浅女史が下を向いて、声に出さずに笑った。これを聞いて余裕で笑えるんだから、この人も相当ここに染まってる。 「うわあ~!さっすが野口さんですねえ!詳しく教えて下さいよ!!」
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