第6章 冬から春へ

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 誉田君が威勢よく食いつくのに、書類を取り出して立ち上がった滝本が静かな声を被せた。 「私にも全部話して貰う。だから一緒に来たんだ。さて、応接室へどうぞ。――――誉田、悪魔の飲み物頼む」  悪魔の飲み物とは、誉田君が淹れる、熱湯に近くてドロドロのコーヒーの愛称だ。  一瞬で目が覚めるからと言う理由で、滝本は愛飲している。  うす!!と叫んだ誉田君の横をすり抜けて、あたしは応接室へ入った。 「野口さんもどうですか?!」 「・・・いえ、お構いなく」  急いで断って、別室に入り、ドアを閉めた。  あの黒い液体をコーヒーと呼んでしまったら、申し訳なさから岡崎さんのカフェには行けなくなるに違いない。  滝本はすっかり外面になってあたしの前に座る。  柔和な雰囲気、口元には微笑、そして完璧な敬語。一人称が俺から私になり、表情が変わらなくなる。  ここ二日間は殆ど素顔の滝本と接していたので、ちょっと懐かしくて新鮮だった。 「まずは、君からだ」  ソファーに座ると同時に滝本があたしを促す。  ここ2日で結局概略しか話せてないんだから面倒臭いことにもなったわけだし、ここは仕方ない、とあたしは背筋を伸ばした。  そして、話しだした。  本当に初めから。  ここの事務所のソファーで昼寝をしていたら、滝本にキスをされたところから。  ヤツは苦笑してたけど、あとは途中で悪魔の飲み物を持ってきた誉田君にお礼をいう時以外、非常に集中して聞いていた。  判らないところは何度も言葉を変えて確認し、あたしが不在の半月に起こったことを話し終えると既に昼近かった。 「・・・」  あたしはぐったりとソファーによりかかる。  あー・・・疲れた。こんなに話しつかれることなんて、一人暮らしのあたしにはない。  副業もパソコンだし、一方的に自分のことばかりを話すことなんて学生の時以来ではないだろうか・・・。 「ご苦労さん」  滝本がメモを取っていたペンを止めてあたしを見た。 「これで大体判ったよ。鈴木についても、もう少し突っ込んで調べられるだろう」  ・・・そうですか。それは良かったですね。  あたしは疲れて既にどうでもよくなっていた。誘拐されたことが遥か昔のことのように思える。  そんなことあったっけ?みたいな。
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