16人が本棚に入れています
本棚に追加
「・・・ええええー!!!マジっすか!?ボスは野口さんの事が好きだったんですかー!!?」
まず誉田君が絶叫して、ついで飯田さんが噴出した。
桑谷さんはそれを見回して、あれ?と呟く。
「・・・俺、失言?」
目を瞬いて首を傾げる桑谷さんに、あたしは引きつった笑顔を送る。
マジですか!?俺だけ知らなかった!??と後ろで大絶叫している誉田君をチラリと見て、滝本が、口元にうっすらと笑みを浮かべて恐ろしく低い声で言った。
「・・・彰人。大事な妻に遺書を書け。終わり次第、俺がてめえを殺してやる」
あーあ・・・。
何だ、コラァ!と獰猛な顔をして立ち向かおうとする桑谷さんを飯田さんが止め、強烈な怒気を放つ滝本を誉田君が懸命に止めていた。
あああ・・・。
壁同士が殴りあいをはじめる前に帰ろうっと。
あたしは湯浅女史に、うんざりした顔を見せて言った。
「・・・あたし、帰りますんで、野郎共の喧嘩が終わったらそう伝えてくださいます?」
湯浅さんがにっこりと笑った。
「はい、了解です。寒いから風邪に気をつけて」
あたしも笑った。
「はい、湯浅さんも。それでは失礼しました」
別室の入口で子供には聞かせられないえげつない罵りあいをしている男達を放っておいて、あたしは昼下がりの街に出る。
思いついて、そのまま美容院に直行した。
適当に入った美容院で、髪を整えて貰って、色を変える。目立たないのが一番だと暗めの茶髪だったのを、ワントーン明るくしてベリーピンクをいれてもらった。
鏡の中のあたしはすっかり雰囲気が変わり、耳下までのショートボブに明るい髪色の女になっていた。
仕上がりに満足して、美容師にお礼を言う。
個人の稼ぎは封印することに決めたのだ。スリとして多少目立ったって、もういいのだ。
鈴木がくれた報酬でこの冬は十分に越せる。
どこに休暇で行っているのかは知らないが、鈴木が戻るまでにはまだ時間もありそうだった。
ならば、あたしは今まで通り、毎日を楽しむだけ。
すっかり軽くなった頭と気分を持って、鼻歌を歌いながら家まで帰った。
風は冷たく雪でも降りそうなどんよりとした曇り空だったけど、あたしの心は軽かった。
スキップでもしそうな勢いで、マンションに入って行った。
最初のコメントを投稿しよう!