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杯を返した。
「見ておいた方が、」
「…うん、」
「…覚悟ができるかと。」
「え、ちょっと待って、そんなに見た目えぐい?」
「さぁ?貴方がちゃんとパーティに行って、確認されては?」
「えぇ、いやいやいや、えー?気になるじゃん」
「気になるように言いましたから。さぁ。」
「さぁ、じゃねぇ!行かねぇよ!」
ぐびぐびと酒を飲みながらバルコニーから立ち去ろうとしている。
だがきっとパーティには行かずに別の部屋に立てこもるつもりだろう。
私も頭の中で、王や私の父への言い訳を考え始めていた。
「…何故そんなに頑なに、会おうとしないんだ」
せめて理由のヒントが欲しい。
そう思い王子の背中に問いかける。
私の声に立ち止まった王子は、振り向きはせず、
考え込むように宙を見上げた。
「……もう、どうせ逃げられないんだろ。」
「えぇ、」
「ならいっそ、…もう突然でいいよ。」
「突然…?」
「顔なんて見ちゃったら、余計なこと考えるだろう。あぁこの子と、子作りして、いい夫婦として王政の一端を担って、とかさ。そんな時間、…ちょっと短くさせてくれたって、いいだろ。」
最後は振り向いて、不機嫌丸出しな表情で訴えかけられる。
「判ったか。」
「それならそうと、王に伝えられては―」
「あのおっさんが聞くと思うか」
「…………」
「な、そゆことだ。」
王子は初めから結婚には納得されていなかった。
だが抵抗する術はない。
王子として生まれてきた時から逃れられない。
いつか来るこの時を覚悟はしていた。
それまでの期間で良いから、
誰よりも傍にお仕えできることを、喜びにしていた。
だから私は、
婚礼に抗おうとする王子を見て、
内心喜んでいた。
貴方の心はきっとまだ此処にあると、
ほくそ笑んでいたのだ。
「じゃあ俺、急病で寝るから、後は宜しく」
いたずら好きな少年のままの笑顔で、ひらひらと手を振りながら立ち去っていく。
「…承知いたしました。」
困った顔を作るのも随分上達した。
返事をするように右手を挙げて、
胸がせり上がるのを感じる。
国の行く末よりも、
貴方の一瞬の笑顔が奪われる方が、私にとっては大問題なのだから。
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