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王女の顔を俺は知っている。
真っ白な肌に、真っ赤な唇、
丸く大きな瞳、小さくて、細くて、
とても可愛らしい少女だ。
会えば王子は何と思っただろう。
あの場では、面倒だのなんだの言っていたが、
実際に彼女を見たならば、考えを変えていたかもしれない。
どんな過去の選択肢も、現在に繋げるために存在する。
ならばあの時王子と王女を逢わせなかったが為に婚礼の時期はまだ先になり、
それよりも前に戦いは始まり、
彼は命を落とすことになったのか。
やはり逢わせておくべきだったのだろうか。
逢わせておけば、教科書はがらりと違う史実を載せていただろうか。
結局図書館で借りたいずれの本にも、ブルグンドについての記述は僅かしか載っていなかった。
勿論ケイト王子の名も、ましてや俺の名も無い。
西暦400年頃に成立したが、周りの巨大勢力にすぐに飲み込まれた。
暫くはフランク王国の領土としてのブルグンド王国を守り続けたが、
11世紀頃には、国としての存在感を失っていく。
あんなに必死になって生きて、戦ったことが、
なんとあっけなく過去の一瞬になり下がるのだ。
俺達が命をかけた結果なんて、
特に何も残らなかったんだ。
そんなことに納得ができない。
パソコンを立ち上げて、大学の教員一覧を調べる。
歴史学の教授、中でも西洋史を担当している者が居れば、
大体の教授は連絡先を開示していて、直接メールを送ることが可能なはずだ。
何人かの顔写真が表示されたので、
良く判らないが一番上に掲載されている、一番年長に見える教授のアドレスをクリックした。
メールを確認してくれるのかも若干不安なくらい年長だ。
自分が選択している授業の先生にだってメールなんてろくに打ったことが無い。
書き出しは、どうすればいいんだっけ。
とりあえず名前だけで良いか、
そして冒頭に俺の名前を打ち込んだら、
続けて「ブルグンド王国について、知っていたら教えて欲しいです」と簡潔に打ち込んだ。
これ以上に書きようがない。
この集中力がもっと多方面に活かされたら、
俺はもっと立派な大人になれるのに、
活かそうとしないのが判り切っている思考だ。
アドレスが間違っていないかもう一度確認して、送信ボタンを押した。
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