242人が本棚に入れています
本棚に追加
見覚えがある顔立ちだった。
「あ、でもおばあちゃんがフランス人だから、クオーターです!」
「どーりで!日本人の顔じゃねぇもんなー」
そこまで会話をして、隣の男子にバトンタッチをした。
俺は口元を手で押さえながら記憶をかき分けて行く。
何処だ。
どっちだ。
同じ学部ならどこかのクラスで一緒になった可能性もある。
多分そちらではない。
もう一度顔をあげて、気付かれないように短い時間ずつ、エリーの顔を見た。
あの大きな目は、
俺と合ったことがある。
詰め寄られた、と言った方が良いか。
啓人は俺の隣の隣に座っている。
なんとかして彼の表情も伺ってみたが、特に変化はない。
記憶があるようには思えないし当然だろう。
伏し目にしていたところ、目の前に何かがちらつく。
顔を上げると、エリーが俺の前で手をひらひらさせていた。
「…何?」
「んー?俯いてるからどうしたのかなって」
「ううん、なんでもない」
「ねぇ、ちょっと」
今度は手招きするので、左右の様子を見てから身を乗り出した。
彼女も同じように身を乗り出して、俺に耳打ちをする。
「…レイ、って、いうんだね。今度も」
言い終わり、トン、と肩を押された。
もう戻っていいよ、という合図だろうか。
急にひそひそ話をし始めた俺達を周りが責め立てる。
平然と笑顔で席に座り直す彼女と、
力が抜けて、ゆっくり、滑り落ちないように片手を付きながら座る俺と、
目線は外せないままだった。
「えー!なに2人!なにこそこそして!」
冬馬が面白そうに声を上げる。
「怜君、歯に青のり、ついてたから、教えてあげたんだけど」
恥ずかしげにエリーはそう返し、場は和やかに盛り上がる。
俺も横から前から男子に変な顔で睨まれるから、
「あー…そうそう、UFO、食った、から、ね…サーセン…」
と、震える声で会話に乗った。
そうだ、俺はこの眼に睨まれたことがあった。
あの舞踏会の夜。
「王子はまだいらっしゃらないのかしら」と、
笑顔なのに背筋が凍りついたことまで思いだした。
エリザ王女だ。
王子が結婚する筈だった、隣国の王女だ。
覚えているのか、
俺が前世も今も同じ「レイ」という名であることを、
それ以外知る由も無い。
だが確か、王子は結局、エリザには逢わなかった、
つまり彼は、彼女の顔を知らない。
最初のコメントを投稿しよう!