episode 2

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一人ずつ自己紹介が進んで行く。 俺はエリーを凝視したままだった。 彼女とてケイト王子の顔を知らないのだ。 だが彼女は、俺の顔どころか名前まで覚えていた。 そして俺の中の疑惑は確信へと、 もう逃げられないのだと変貌を遂げつつある。 俺一人の妄想ならともかく、 何故見ず知らずの筈の彼女が、ブルグンド王国のたかだか家臣の名前を知っているというのだ。 まるで旧知の仲のような具合で。 それがまさか、こんなに身近に居るだなんて誰が想像できようか。 いや、啓人の存在を確認した時に覚悟しておくべきだったのかもしれない。 前世の縁を、現世にまで引き摺っていることに。 「はい次はー?」 「あ、俺か」 啓人の声が聞こえた。 エリーも彼を見る。 俺も同じように視線を移した。 そんなはずはない。 自分に言い聞かせる。 「文学部の、3回の、啓人です!おねしゃーす!」 片膝を立てて両腕を挙げて浮かれた様子で叫ぶ。 派手な風貌で明るい彼はそれだけで女子を沸かせた。 こめかみに冷や汗が浮かぶ。 一連を見届けてからゆっくりと前を見た。 エリーはまだ啓人を見ていて、ただ口元が微かに動く。 ケイト様、と。 笑顔のまま、流れるように眼球だけを俺に向けて、 俺の表情を見て、小さく、何度か頷いた。 何かを確信したかのように。 俺は無言で、誰にも気づかれぬように首を振った。 言葉は交わさない。 彼女はそれを見て、口角を吊り上げて笑みを作った。 エリーはケイトを探していた。 今度こそ結ばれるために。 「あ、隣の隣のね、怜と幼馴染です」 「えー!それで大学も一緒なの!?」 「そーそー。ちょっとキモいくらい仲良くて」 「ちょ、啓人」 俺の制止を聞かず、彼の口は見事に動き続ける。 啓人とエリーを交互に見るうちに、 みるみるエリーは楽しそうに笑う。 どれだけ喜ばしいか それを誰よりも判ってしまうから、俺は言葉を失った。 奇跡だと思うべきか、これが運命なのだと思うべきか この感情が自分だけが抱くものだと思いあがっていた反動が来る。 馬鹿騒ぎする友人たちの声は最早届いて来ない。 此処だけが膜に覆われたように遠い。
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