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ただあれ以降、飲み会が終わっても
エリーは再び先程のような笑みは見せなかった。
帰り間際に全員と連絡先を交換して、
女子達は半数は帰るようである。
半数に、彼女は含まれていた。
意外だ、帰るのか。
連絡先を手に入れたことで充分なのかもしれない。
「あーじゃあー、残った奴は、2次会、行きますか!」
「うぇいー!」
1次会に続きまたしても冬馬は幹事ポジションのようだ。
声に釣られて少しずつ場所を移動する。
男子は誰ひとり帰っていない。
だがよくよく考えると、男子は殆どが下宿だから
終電を気にする必要もないらしい。
数少な通学組の啓人も、時間にはまだ余裕があるし此処に居る。
「怜明日何限?」
「あー、2限。」
「つかあれか、一緒か。」
「うん。」
歩きながら、ごく自然に横に並ぶ。
流石に夜は涼しい、というよりも、寒い季節になった。
身体が酒で温まっているから尚更だ。
「あ、じゃ、泊っていい?」
「おう。あ、」
「え?」
「いや、大丈夫」
「え、なんだよなんだよ」
啓人が泊りに来ることも珍しくない。
反射のように返答してしまった。
感情が揉みくちゃになる。
家を出るまで調べ物をしていた痕跡があるかもしれない、ということ。
思い出したお陰で、彼と共に居る意味を自覚してしまったこと。
ただ俺だけが、日常から足を踏み外していく。
「なんでもないから、な。」
「まじ?イケナイもの転がってる?」
「ねぇよ」
いつもの調子だ。俺も自然と笑うことができた。
「…啓人、」
「あん?」
「今日誰が一番好み?」
あくまで前だけを見ながら問うてみる。
彼は間を置いて、低く唸りだした。
「こぉぉぉのみぃぃぃぃ…」
「悩むなら、居ないんじゃねぇの」
「んんんんー、強いて言うなら、エリーちゃんは、美人だった。かな。」
「…満場一致だな。」
「うんでも、別に2時間喋ったくらいで付き合いたいとかは、ならんもんだなやっぱりな。」
彼の意見に同意する。
だが胸が痛い。
やはりあの日、無理やりにでも王子を舞踏会に連れ出していたら、
歴史は、運命は、変わったのかもしれない。
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