episode 3

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息をすること、目を開き物を見ること、 空が在って、空気があること、 そんな当たり前すぎる事象の中に、啓人の存在がある。 そうして俺は今まで生きてきた。 子供の頃は、訳もなく走り回って遊んで、笑っていた。 それが全てで、それだけで良かった。 人間は成長していくと、ただ一つの愛を求める。 誰に教えられることもなく、 自然とそういうものなのだと思い始めて、 俺は、啓人が欲しいと、気づいたのだった。 彼は明るくて人気者だったから、周りにはいつも大勢の人がいて、 彼を独り占めして、抱き留めてといったずうずうしいことはできず、 ただそっと、彼が戻ってくる場所は此処なのだと、 自らに、彼に、そして周囲に知らしめるように、 片方の手を掴んでいるのがやっとである。 それでも良かった。 僅かな表面積が、啓人に触れる。 俺もどこかで、 この手が離れる訳がないと、信じている節もあった。 もう外は日が昇っている。 何となく重い体に、痺れる瞼。 珍しく身体から酒が抜けきっていない。 手の甲で目をこすって寝返りを打つ。 ベッドに並列しているフロアソファから、毛布の端が見える。 頭からつま先まで完全にそれに包まれて啓人が寝ていた。 枕もとの眼鏡をかけて、部屋を見渡した。 どうやら連れ帰ってきたのは彼だけのようだ。 こたつテーブルには、カップ麺が食べ終わったままの形で放置されている。 合コンの帰りに、確か俺の家に向かう前に、コンビニに寄ったんだ。 二人とも正気だったはずだが、布団に辿り着くと一瞬で睡魔に襲われる。 授業までまだ時間はある。 ただ身体中が酒やたばこの香りで臭い。 ゆっくりしていてもいいが、起きることにした。 ソファの前で腰を下ろし、暫く眺めてみる。 呼吸に合わせて上下している。 起こさぬように、端を掴んでそっとめくりあげると、 見えてきたのは白い脚。 そうだ、こいつ酔うと脱ぐタイプだった。 噴き出しそうになったが、ぐっと飲み込んで更にめくり上げると、 幸いパンツは履いていた。 そこまで確認して、また同じ速度でゆっくりと毛布をかけ直した。 ただ邪心が芽生えた俺は、続いて別の場所をめくり始める。
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