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息をすること、目を開き物を見ること、
空が在って、空気があること、
そんな当たり前すぎる事象の中に、啓人の存在がある。
そうして俺は今まで生きてきた。
子供の頃は、訳もなく走り回って遊んで、笑っていた。
それが全てで、それだけで良かった。
人間は成長していくと、ただ一つの愛を求める。
誰に教えられることもなく、
自然とそういうものなのだと思い始めて、
俺は、啓人が欲しいと、気づいたのだった。
彼は明るくて人気者だったから、周りにはいつも大勢の人がいて、
彼を独り占めして、抱き留めてといったずうずうしいことはできず、
ただそっと、彼が戻ってくる場所は此処なのだと、
自らに、彼に、そして周囲に知らしめるように、
片方の手を掴んでいるのがやっとである。
それでも良かった。
僅かな表面積が、啓人に触れる。
俺もどこかで、
この手が離れる訳がないと、信じている節もあった。
もう外は日が昇っている。
何となく重い体に、痺れる瞼。
珍しく身体から酒が抜けきっていない。
手の甲で目をこすって寝返りを打つ。
ベッドに並列しているフロアソファから、毛布の端が見える。
頭からつま先まで完全にそれに包まれて啓人が寝ていた。
枕もとの眼鏡をかけて、部屋を見渡した。
どうやら連れ帰ってきたのは彼だけのようだ。
こたつテーブルには、カップ麺が食べ終わったままの形で放置されている。
合コンの帰りに、確か俺の家に向かう前に、コンビニに寄ったんだ。
二人とも正気だったはずだが、布団に辿り着くと一瞬で睡魔に襲われる。
授業までまだ時間はある。
ただ身体中が酒やたばこの香りで臭い。
ゆっくりしていてもいいが、起きることにした。
ソファの前で腰を下ろし、暫く眺めてみる。
呼吸に合わせて上下している。
起こさぬように、端を掴んでそっとめくりあげると、
見えてきたのは白い脚。
そうだ、こいつ酔うと脱ぐタイプだった。
噴き出しそうになったが、ぐっと飲み込んで更にめくり上げると、
幸いパンツは履いていた。
そこまで確認して、また同じ速度でゆっくりと毛布をかけ直した。
ただ邪心が芽生えた俺は、続いて別の場所をめくり始める。
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