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先程とは真逆の毛布の先端を掴む。
髪の毛が少し覗いている方だ。
俺の背後、カーテンの隙間から日差しが入るので、
丁度それを背で隠すように身をかがめる。
俺は寝ぼけているのか、はたまたまだ酔ってるのか
正気であれば絶対にこんなことはしない。
再びゆっくりめくっていくと、徐々にくせ毛が露わになる。
まだしっかりと瞼を閉じて、
細いけれど多い睫毛が、僅かな光を浴びて頬に影を落とす。
昔から変わらぬ、親友の寝顔だ。
もっと共に生きたかった。
貴方の為に生きたかった。
その願いが叶うなら、それで充分だったはずなのに、
人という生き物は、状況が良くなるにつれて欲が増す。
存在だけでは飽き足らず、
今やお前の心まで欲しい。
平和な世に、対等な地位を持って生まれ変われた今だからこそ言える、暴言かもしれない。
だが俺は、毛布をめくり上げたまま、動きを止めていた。
触れたいようで、触れてはいけない、
自制心がフル稼働する。
空気が流れ込んで、寒さを感じたらじきに目を覚ますだろう。
あとほんの数秒で良い
ぼんやりと、啓人を無言で見つめた。
予想通り10秒と経たぬ内に眉間に皺が寄り、
腕が伸びて毛布を奪い返されてしまった。
目は開いていないはずだから、俺が凝視していたとは気づいていない。
本能的に暖を求めたのだろう。
時刻は間もなく午前9時。
もしかしたら啓人は家に一回帰るかもしれない。
そろそろ声を1度かけるべきである。
「…啓人、」
「うぅ」
すぐに返事は来た。
どうやら覚醒はしているらしい。
「朝だけど」
「うー」
「…そのまま授業行く?」
「…んん」
寝起きが悪いのか、肯定か否定か判別がつかない。
「まぁどっちにしろ、シャワーは、浴びる?」
「んなぁ、…脚、さっみぃんだけど…」
「お前が自分で脱いだんだろ」
「えぇー…?まぁじかぁ…?」
ソファのすぐ横に落ちていたスウェットを毛布の上に置いてやると、
また気だるげに手が伸びて、ずるずると引きこんでいく。
もぞもぞ動いて中でズボンを履くと、また元通り小さく丸まっていく。
そして寝息が聞こえてきた。
「啓人、寝るな、こら」
上から軽く叩くが何処が何処だか判らない。
起きなかったらどうしよう。
受ける予定の講義の内容を思い返してみる。
まだ休めただろうか。
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