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大学の裏手にある俺の家。
住宅街とともに単身者用のマンションやアパートも多く並ぶそこは、
ほんの数100メートル校舎から遠ざかっているだけなのに、なんとも静かだ。
時折、本当に遠くの方で車の排気音が聞こえるくらいで、
あとは部屋の中の動作音が響くばかりである。
顔を洗う為の水を出して、
その雫が洗面台に跳ねる音。
それを通り越して、啓人が起きた気配すら感じる。
シャワーを浴びる前に部屋に戻ると、
まだソファの上だが上体を起こして携帯を触っていた。
「すっごい、LINE、来てる」
顔を上げずに独り言のようにポツリと言った。
俺もそう言えば朝起きてから画面を見ていないことを思い出す。
「…誰?冬馬?」
「んん、みんな。そっか、ID交換したか」
「1次会の終りに」
「そっかぁ、それで…全然気付かなかった…」
「何が?」
「音」
「あぁ、俺も、爆睡してた」
確かにディスプレイは、通知が来ていることを示していた。
枕元に置いていたにも関わらず全く気付かなかった。
よっぽど酒に呑まれていたらしい。
「俺も来てる」
言うと、啓人が「誰?女子?」と眠たそうな顔で振り向いた。
適当に相槌を打ちながら確認していく。
そうか、昨日の参加者でグループを作ったのか。
そのグループ欄の通知が20を超えていて、読もうかどうか指が止まった。
だがその上に、個人名が表示されている。
エリーだ。
「啓人、」
「なに」
「…お前の通知ってそれ、グループのことだろ」
「え、あ、うん、そう」
否定をしないということは、
本当に彼の携帯にはグループの会話のみが届いて、
俺の携帯にだけ、追加でエリーからの通知が来ているということだ。
「啓人、シャワー、先どうぞ」
ベッドに上がり、壁を背にして座る。
この画面はまだ見られてはいけない。
「いいよお前先に入れよ」
「いいって、ここで起きなきゃお前絶対二度寝すんだろ。ほら。」
脚で彼の背中をぐいぐい押してやると、
うえーだの唸り声を出しながらも、腰を上げてくれた。
部屋とキッチンを隔てる扉が閉まったところで、
一番上の未読メッセージを開いた。
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