episode 3

4/11
前へ
/123ページ
次へ
大学の裏手にある俺の家。 住宅街とともに単身者用のマンションやアパートも多く並ぶそこは、 ほんの数100メートル校舎から遠ざかっているだけなのに、なんとも静かだ。 時折、本当に遠くの方で車の排気音が聞こえるくらいで、 あとは部屋の中の動作音が響くばかりである。 顔を洗う為の水を出して、 その雫が洗面台に跳ねる音。 それを通り越して、啓人が起きた気配すら感じる。 シャワーを浴びる前に部屋に戻ると、 まだソファの上だが上体を起こして携帯を触っていた。 「すっごい、LINE、来てる」 顔を上げずに独り言のようにポツリと言った。 俺もそう言えば朝起きてから画面を見ていないことを思い出す。 「…誰?冬馬?」 「んん、みんな。そっか、ID交換したか」 「1次会の終りに」 「そっかぁ、それで…全然気付かなかった…」 「何が?」 「音」 「あぁ、俺も、爆睡してた」 確かにディスプレイは、通知が来ていることを示していた。 枕元に置いていたにも関わらず全く気付かなかった。 よっぽど酒に呑まれていたらしい。 「俺も来てる」 言うと、啓人が「誰?女子?」と眠たそうな顔で振り向いた。 適当に相槌を打ちながら確認していく。 そうか、昨日の参加者でグループを作ったのか。 そのグループ欄の通知が20を超えていて、読もうかどうか指が止まった。 だがその上に、個人名が表示されている。 エリーだ。 「啓人、」 「なに」 「…お前の通知ってそれ、グループのことだろ」 「え、あ、うん、そう」 否定をしないということは、 本当に彼の携帯にはグループの会話のみが届いて、 俺の携帯にだけ、追加でエリーからの通知が来ているということだ。 「啓人、シャワー、先どうぞ」 ベッドに上がり、壁を背にして座る。 この画面はまだ見られてはいけない。 「いいよお前先に入れよ」 「いいって、ここで起きなきゃお前絶対二度寝すんだろ。ほら。」 脚で彼の背中をぐいぐい押してやると、 うえーだの唸り声を出しながらも、腰を上げてくれた。 部屋とキッチンを隔てる扉が閉まったところで、 一番上の未読メッセージを開いた。
/123ページ

最初のコメントを投稿しよう!

242人が本棚に入れています
本棚に追加