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「あ~・・・退屈だわぁ・・・」
それはある朝の日のことだった。
空は暗く、怪鳥の楽しげな叫びがこだまする、清々しい朝。
魔王城の最上階であるこの王室で、イスにだらんと座りながらボリボリと背中を掻いている少女が突然そんなことを言い出したのだ。
「・・・ほれ」
俺はそんな少女・・いや、魔王の前に鏡をおいた。
魔王は背中を掻きながらも鏡を覗く。金色の長い髪は美しく、端正な顔立ちは人種を超えても美しいと思わせるだろう。そんな非の打ち所のない魔王は未だに背中をボリボリと掻いてる。
ボリボリ・・・
「なんで鏡・・?」
ボリボリ・・・
「いや、朝から間抜けた面した魔王を見れたんだ。ちょー、面白い」
ボリボリ・・
「・・・」
ボリがりバキバキ・・・!
途中から聞こえていた音に破壊音がまじり始めた。
頬に冷たい汗を流しながら鏡を裏返すと、鏡面がきれいに割れていた。亀裂が「しね」と書いてあるのは偶然だろう。怖い。
「あんた・・魔王である私を怒らせるとはいい度胸じゃない。ただの魔王軍副官ごときが・・・」
鏡を床に投げ捨てた俺は、魔王の苛立ちの矛先を向けられていた。
殺気で人は殺せるというのは本当かもしれない。ただ、この迫力も彼女にとってはちょっとむかっときただけのもの。それだけで、上位の魔物以外は卒倒して、最悪死んでしまうだろう。
「ただのって・・。副官は結構偉いと思うんだけどな」
「私からしたらそんなもんは、ただの!よ。偉いと思うんだったら私の退屈をなんとかしなさいよ」
魔王はふんと鼻を鳴らして、朝食であるパンをもぐもぐと食べ始める。
「・・・はぁ」
俺はため息を漏らしながら、この魔王を退屈に貶めた原因を横目でちらりと見た。
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