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俺の視線の先には、無残に転がる死体が3つ。
一つは胸に大きな穴を開けていた。
一つは顔面に拳の跡があり、生前の顔立ちは全くわからないほど壊れていた。
一つは首がない。さっき魔王が蹴飛ばして外に放り出したのがそれだろう。
全く・・中途半端な力で魔王に戦いを挑むからそうなるんだ。
これら3つの死体は勇者と名乗る無謀な輩たちだった。そいつらはほんの一時間前にこの部屋にやってきて・・
「魔王!これまでの悪行を悔いろ!そして死ねぇ!!」
と、とても勇者とは思えないセリフを吐きながら、ここにいる魔王と対戦。
魔王は自称勇者一行が現れたときは目をキラキラと輝かしていたのだが、初手の首を飛ばされた奴の攻撃をかわした瞬間、一気に冷たい目に変わってしまった。
魔王は身体を捻って、腰に刺さっていた小さな短刀で初手に攻撃してきた者の首をはねる。胴体とお別れした顔が何が起きたかわからないといった顔から、一気に恐怖の形へと変わり、そのまま地面に落下。
ドスンと地面と頭がぶつかる音が聞こえてきたのと同時に、魔王は5メートルは離れていたであろう他の残り二人の間に跳躍していた。しかし、二人の視線は未だに首を落とされた仲間にあった。
俺がその目を見て、あ・・・っと思ったときには勝負はついていた。
魔王が右拳を顔面に、左拳をもう一人の胸に放つ。
グチャっと音がしたときは二人は10メートルは軽く吹っ飛び、部屋の壁に叩きつけられていた。
手と短刀についた血を服の袖で拭きながら、魔王が一言、
「よわ・・・。まじないわー・・」
これが今の魔王が退屈している原因である。つまりは、楽しめるかと思いきや、全然そんなことなくて、むしろフラストレーションが溜まってしまったのだ。
全く、なぜ実力もないのにこんなところまで来てしまったのか。ここにさえこなければ、魔王のめんどくさい対応をしなくてすんだというのに。
俺は恨みのこもった目を死体に向けた。
「・・・・」
しかし、思い直して怒りを沈め、死体に近づきそっとお祈りを捧げる。
ああ、わかってはいる。お前たちが弱いのではなく、魔王が強すぎるんだよな。
死体にそう呟くと、死体の無機質な目が俺を覗いているような気がした。
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