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それは本当にわずか半年前のことだ。
スーツに身を包んだ俺は食品のルート営業の職に就く事になった。食品業界では比較的大手で地元じゃ知らない人は少ない人。もともと大学は分離をやっていて事務職とかでも良かったんだが、一般的な事務は女性の求人が多く、事実受けたところの多くは落ちてしまった。大学の社員なども落ち合計58エントリーの21社の試験を受けて受かったのはこの1社のみだった。
交通費やスーツ費にいくらかかったかは分からないけど、大学時代に溜めた貯金は最後の引越しでほぼ無くなったから10万近支出をしてようやく手にした職だ。俺たちみたいな若者の3割が非正社員で派遣などをしている時代に手にした正社員という肩書きは簡単に捨てる気ではいなかった。
のに…最初の1週間で疑問を抱きだしてしまった。
俺達は合同で研修が有った。全部で内定をいただいた102名全員だ。年配の人事課の方が赤色のジャンパー姿でやって来る。営業服だ。
《…ルートってこういう会社名の入った服を着るのか…。》
俺はそのなんと言うかセンスに慣れなかったがまあそこは割り切っていた。
「では…礼儀練習からはじめる。最初のページを見て。7つの接客用語だ。最初!おはようございます!!」
「おはようございます!!」
全員が声を張り上げて頭を下げる。体育会系の部活に居たわけでもない俺はこれがまず苦痛だった。でも耐えるしかない。そもそも今時こんな挨拶をする人は居ない。でも挨拶が出来ないのいけないし、最初の研修はこんなものだろう。俺は割り切りながら声を出していた。
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