第1章

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「美味しいもの作ってくれるなら。まずかったら承知しない。あと、きのこ入れたら中学の時エアギターを毎晩二時間も夜中に練習してたことバラす」  ……え?  知ってたの?  エアマイクまで握って、あろうことかエアオーディエンスの割れんばかりの歓声にクールに応えている様を?  ステージから去ろうとしても鳴り止まない歓声(当然脳内リミテッド)を背に受け、「しょうがねえな、今日の客はラッキーだぜ!」と振り返りアンコールに突入するところまで丸聞こえ? しーかーもーそれを今まで数年間黙ってたの? え、何、そういうプレイ? ごめん耐性ない。  全然ない。 こんな時どんな顔をすればいいのか分からないの。 笑えばいいのかな、鼻水流しながらすげーブサイクな泣き笑いになるけどそれでも構わないかな? 「あの頃おばちゃんから相談されたんだ、夜中に一人で歌ったり叫んだり踊ったりしてるって。毎日私の部屋までも聞こえてたからちょっと心配になって(嘘だ)、おばちゃんと一緒にこっそりこうちゃんの部屋を覗きに行ったら……」 「だああああああわかった、もう何も言うな!」  心が開放骨折、羞恥心はとっくに破裂済みだ。  「若い時はいろいろある、お互い忘れましょう、ね、お願いします。マジで頼んます。」  心の中でエア土下座をしながら俺は言った。 「こうちゃんがそう言うなら忘れる」 かるく微笑んだ明日菜から、楽しくてしょうがないんです風味を感じる。 ……今日眠れるかな、俺。    とまあそんなこんなで店内へ。 鳥肉が安かったので、チキンのハーブ焼きとキャベツとベーコンのパスタにした。 パスタに大量にキャベツを入れるので、サラダはなしでいいだろう。  食材ときれかけていた乾燥バジル(国内メーカーのものしかなかった、やはり高級スーパーのようにはいかない)を買い、二人でおれんちに帰る。  スーパーからの帰り道、ちょっとの沈黙の後明日菜が急に呟く。 「……桃花ちゃん、今日も一人でお弁当食べてた」 「そうだな」 五十嵐桃花。 俺達のクラスメイトで、高校からの知り合いだ。 いや、正確には俺は中学から知っている。 一方的に。 中二の夏に見かけた試合でピッチに虹を架けたあの10番、それが五十嵐桃花だった。 入学式の後教室に入ってきた彼女を見た瞬間、俺は生まれてからしたことのない顔をしたと思う。
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