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始業式。
春一番が吹き、桜の花びらが雲一つない晴天の空に舞い上がる。
校門を抜けると、真新しい制服を着た生徒は案内を見ながらも頭を傾げていた。そして結局は慣れ切った足取りを歩む上級生の後にこっそりと着いて行き、ロッカールームで真っ白な上履きに履き替えていた。
俺は横目でそれを見ながら、一年前自分も経験した「この学校あるある」を思い出して吹き出した。
「この学校、ロッカールームの場所が微妙なんだよな」
俺は自分のロッカーで踵が潰れた上履きをスリッパの様に突っ掛けて、独り言を言った。
その先の掲示板には、模造紙に学年全員の名前が書き記されていた。
新しいクラス割が、でかでかと張り出しが出ている。
俺は自分の名前を確認する。
隣に居た女子が、同じ欄を確認しながら「あっ」と声をあげた。
少し頬を紅くし、はにかみながら俺の方を向いた。
俺はその反応にドキドキしながら、彼女の目を見る。
「あれ?」
確かに彼女は俺の方を向いているが、視線が合わない。
どこか少し先にピントが合っているみたいな。
俺はゆっくりと彼女の目線の先を見ようとする。
その時。背中に鋭い視線を感じた。
「あ、エリコか。どうしたの?」
彼女は腕組みをしながら、少しむくれたような顔で俺を見ていた。
「ほら、早くクラス行くよ!?」
エリコは俺の手を勢い良く引きながら、足早に歩き出した。
「ちょ、待てって。まだ上履きちゃんと履いてない」
俺は片足で跳びながら踵に指を入れ、上履きを履き直した。
彼女は俺の言葉を無視しながら、「良かったわねぇ?」と話し出した。
「また私と同じクラスよ。先生も分かってるみたいね、ターくんはちゃんと保護者が居ないとダメって」
「え?」
「すぐ余所見するしさ!!」エリコは振り返って俺を睨んで言った。
どうやら、さっき女子を見ていたのが気に入らなかったらしい。
「そんな別に見ただけだろ」
「見方がヤらしかった!!」
「なんだよ、それ。別に胸を見た訳じゃ」そこまで言って、しまった、と思った。
「サイッテー!!!!!!!!」
エリコは涙目で睨みながら、俺の手を勢い良く振り払う。
そして一人でツカツカと歩いて行ってしまった。
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