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入浴を終え、三人で朝食を取る。佐倉家ではご飯を食べるときは家族でと言うのが母、美咲からの強い要望だった。俺もそれにだけは従っている。
「南、今年はしっかり学校行きなさいよ?留年なんてしたら父さんみたいな頭にしてやるからね」
「おい」
「断固拒否する」
「……おい」
「それがいやならしっかり行って、父さんみたいな頭になりたくなかったらね」
「執拗なほどに私の頭を持ち出すのやめない?いい歳こいて泣いちゃいそうになるから」
母からの鋭い視線を受け流しつつ、俺は視線をずらす。先程までのやり取りを見ていたのか、宙に浮く手が可笑しそうに震えている気がした。
「ごちそうさま」
時間も時間の為母の用意してくれた朝食をかき込み、すぐさま洗面所へと向かう。歯ブラシに歯磨き粉をひねり出し、入念に歯を磨いた。
自分の部屋に放置してある何も入ってない鞄をつかみ上げ、階段を降りる。
「南、これ教科書代」
母から渡された封筒を受け取りズボンの尻ポケットにねじ込む。またもや洗面所の鏡の前で自身の頭髪と格闘する父を横目に玄関に腰を下ろす。古くなってしまった靴に足を入れ、ちょうどいい位にひもを調節、いつでも脱げたりはけたりするようでなければ意味がなく、ちょうどいいきつさと緩さの中間でひもを結ばなくてはならない。
絞りすぎてもだめ、緩すぎてもだめなのだ。
「いってきます」
「いってらっしゃい」
「気をつけてな」
顔を出して見送ってくれる母、洗面所から飛んでくる父の言葉。
これが俺、佐倉南の一日の始まりにして、日々の日常だった。
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