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「うーす、佐倉ぁ」
その日は晴れ渡っていた。綿菓子を連想させるその白い雲は青い空をのんびりと泳いでいる。風が吹く度に舞い上がる桜の花びらが、青い空をうっすらとした桃色に染め上げる。
俺が通う通学路にはすでに何人かの生徒の姿が存在した。かつて高柳山と呼ばれた場所には俺の通う高柳有馬高校が存在している。
「あれあれあれぇ?無視?無視は酷くない?おかしいな、おーいおっはよーうございまーす」
高柳有馬高校には二つの生徒達がいる。一つは俺のように歩いて登校する近所に住む生徒達。もう一つは遠方からくるバスに乗って登校してくる生徒達だ。俺としては歩く事ほど面倒くさい事はないため、近くだとしてもバスに乗せてほしいところではあるのだが。
「これがいわゆる放置プレイ……」
学校へと向かうための通学路には桜並木が存在している。毎年、春になると桃色の花を咲かせるその木、それを眺めながらの登校はなかなかに風情がある。が、それも最初だけだ。二年目にはただただ顔に当たる花びらが鬱陶しくかんじる。
通学路をだらだらと歩いていると、横をバスが走り去っていく。窓から俺を眺める見知った顔が口パクで「急げよ」とつげていた。
スマートフォンの画面を確認するとすでに七時五十分。ほぼ遅刻は確定している。仕方がなく、俺は時間通りに学校へと到着するのを諦めた。
「何だよ!佐倉のばーか」
朝と言うこともあり、空から差し込む日差しは優しい。これが昼になると攻撃かと言いたくなるほどの紫外線が襲いかかってくる。そんな事を考えながら、俺はゆっくりと歩を進めた。
チラリと、視線をずらすとやはり蠢くその女性の手。それは現在も、細かな粒子、時に大きな固まりがゆっくりとではあるが元の形へと戻るために一つになっていく。
「全部出来上がったらどんな姿になんのかな」
一人俺はそんな事を呟くのだった。
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