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「十五年ぶりか」
新幹線の扉が開き、駅のホームに男が降り立つ。黒のスーツを身にまとい、旅行鞄を足下に置いた。スマートフォンが胸ポケットで点滅する。
「懐かしい」
男はそうつぶやくと、駅の喫煙所に向かった。喫煙所の中にはすでに何人か人がおり、扉を開けて中に入ると副流煙が出迎えてくれた。胸ポケットに入れてあるスマートフォンと煙草を取り出し、煙草を咥えて火をつける。大きく吸い込むと煙が肺いっぱいを占領した。
スマートフォンを点滅に気がつき、画面を見ると、メッセージが表示されている。
『少し遅れる』
あいつらしいな
男はそのメッセージを読み、返信した後、もう一度煙草の煙を吸い込んだ。
喫煙所には男を抜いて人が三人いた。ひとりはスーツ姿で頭部に陰り、いや、光指す男性。細身なその男性は男と同じくらいか、それより上の歳だろうか。
もう一人はこちらも男性。しかし、此方は前者とは異なり、蓄えに蓄え込んだ物に苦労させられつつも、汗を生み出し続けながら煙を吐き出している。大きな顔には小さな眼鏡が備え付けられていた。
そして最後が、見るからに未成年であった。金色に染めた頭髪、どこかで見たようなブレザー姿でスマートフォン片手に煙草を咥えている。
男はその姿を見て、先のことを考えてしまい、げんなりした。
吸い込んだ煙を吐き出す。今ではなくてはならなくなった煙草。やめよう、やめようと無駄な努力をしては見たものの禁煙する事はできず、ただ煙草を吸う本数だけが増えていった。悲しいことに。
煙草の火を灰皿に押し付け、そのまま捨てる。喫煙所から出ると、先程感じた空気がどこか澄み切っているように感じる。
一度大きく伸びをし、旅行鞄を持つとホームから外にでるために歩き出した。
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