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「まあ、な。でもまさか尼崎の親父さん直々にスカウトされるとは思わなかったよ」
「まじで?親父さんがスカウトしにいったのかよ……」
運ばれてきたビールで乾杯し、ゴクッと喉がなった。苦味を含むその液体が喉を通り過ぎる。学生のころ、隠れて飲んだときは美味しいと思うことのなかった。それを美味しいと思えるようになったのはいつ頃からだろう。
「向井の親父さんは相変わらずか?」
「あの人が変わることは有り得ないだろうな。自分が死ぬときになっても仁王立ちで死にそうな人だし」
いつのまに頼んでいたのか、枝豆と運ばれてくる。向井はそれを口に運び、豆を食べ始めた。
「やっぱりビールには枝豆だよな」
そう言いながら喉をコクコクならすのだった。
「そう言えばさ」
「んー?」
二人の酒のペースは進み、からになったグラスがテーブルの隅を占領している。顔が上気し、仄かに赤みを帯びた向井は男に真剣な表情を向けた。
「お前が行く高柳有馬高校、でるらしいぞ」
「でる?なにが」
「幽霊」
二人の視線が数秒交錯する。向井の真意を図りきれずに男は相手の出方を待った。
「夜になると二年の教室の一室に女がたってるらしい。あと巨大な男も徘徊してるって噂だ」
「確かあそこ……」
「ピエロ殺人事件最後の被害者とその殺人犯が死んだところに建てられた学校だ」
二人の間に静かに緊張が走る。
きをつけろよ高野。向井のその言葉を最後に懐かしい飲み会は解散となった。男ーーー高野は居酒屋からの帰り道、夜の星空を眺めながら歩く。器用に人とぶつからないようにすれ違いながら。
笑っているような、泣いているような、何とも言えない表情を浮かべながら。
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