1 日常

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 夜の街は、俺にとって日常の一つだった。真っ暗な暗闇、その中にそびえ立つビルの森の中に点々と灯る灯り。その明かりが集まり、夜の街を照らす。それでもすべてが明るくなるわけではない。ビルの森の隙間、そこには必ずと言っていいほど、闇が存在する。  俺は其れを覗き見るのが好きだった。現在の時刻は深夜二時。もうすでに高校生が出歩いていい時間ではない。ビルの明かりを反射して煌めく前髪を摘まみ、酔っ払いが蠢く道路を横切る。  家族にはすでに見放された。両親はこんな俺を見ると決まってこう言う。「お姉ちゃんが泣いてる」と  しかし、そんな事を言われたところで俺が夜遊びをやめることなどはない。2歳の時にいなくなってしまった姉の顔なんて覚えていないし、正直それがどうした?と言いたい位だ。  ビルの隙間の暗闇、そこには時に人ならざるものが存在する。普通の人には見えない。でも、俺は見えてしまう。其れを見ない振りして様子を伺いつつ、観察するのが日課だった。  誰に会うでもなく、ただ、夜の街をブラブラと歩き回り、暗闇をのぞく。其れの繰り返し。いつからこんな事をするようになったのだろうか!少なくとも小学生の時にはすでにしていた筈だ。 「それもこれもこれのせいだな」  俺の周りを蠢きながら漂うその粒子。今では人の手になっていた。おそらく、女の手。  幼い頃から、徐々に形作っているこれは、どうやら俺にしか見えないらしく、両親に話したとき本気で頭の心配をされた。 「本当、なんなんだ、お前」  言葉が通じるはずもないと言うのに、俺は言葉を投げかける。それに反応するかのように、指がピクッと跳ねるのだ。
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