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丘の上に設置された古ぼけたベンチ。そこから見る日の出に感動していたのは何時のことだっただろうか。ビルの森が小さく見え、それなのにそれよりも遠くから顔を出し始めた太陽の大きさ、それを眺めながら、煙草に火をつける。
「未成年が喫煙していいなんて法律僕は初めて知ったんだけど、いつの間にか法律は変わっていたのかい?」
知らない男が隣の空間を占拠する。俺の為のものではないので文句を言う必要はないのだが、その男に視線を向けた時、何故か寒気がした。
「……法律はかわってない、俺が違反してるだけだ」
「そうなのか、なら僕は大人として君を注意しなくちゃいけないわけだ」
そう言って男は煙草に火をつけた。徐々に登ってくる太陽に被せるように煙を吐き出す。
男は整った顔立ちをしていた。少なくとも男の俺から見てもその顔立ちの良さはよくわかる。目元に刻まれた小さな皺が、彼が重ねてきた年月を教えてくれていた。
「君はここによくくるのかな?」
「……気が向いたときに」
煙草の灰を携帯灰皿に落とす。俺も灰を落とそうとした時、その携帯灰皿を差し出された。
「煙草を吸うなら、せめてマナーは守ろう」
「どうも」
その携帯灰皿を受け取り、その上で煙草を数回弾く。携帯灰皿を男に渡すと、笑みを浮かべて男は俺から携帯灰皿を受け取った。
「聞き分けがいいね……君、名前は?僕は高野翼と言うものだ」
「……佐倉南」
「佐倉君か、また機会があったらゆっくり話でもしよう」
高野と名乗った男は俺に手を差し出した。それを握ると満足そうにベンチから立ち上がり、丘を下りていく。それを見下ろしながら煙を吐き出した。
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