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非常階段は音が響く。
一階から鉄のドアが開く音がした。
誰かのヒールじゃない足音が聞こえる。
ふと、気になって振り返ると……。
「田所さん」
驚いて、声が出てしまった。
立ち止まろうかと、一瞬迷ってまた階段をのぼり始める。
呼び止められたわけじゃない。話すこともない。
もっと言えば、気まずい。
ああ、五階の事務所まで遠過ぎる。
少しだけ足を早めると。
「ちょっと、待って」
苦笑いで駆け上がってくる田所さんに眩暈がしそうだった。
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