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横に並んだ田所さんの息は、少しだけ乱れていた。
「いつも階段?」
「いえ、そういう訳では」
顔を見るのが気まずくて、前を向いたままで、短く答える。
「五階まで、結構あるよね」
「そう、ですね」
滑舌のいい田所さんの声だけが、非常階段で反響する。
どういうつもりなのだろう。
ただ単に、混雑したエレベーターに乗りたくなかっただけだろうか。
それとも、わたしを追いかけて?
……まさかね。
自分の自信過剰ぶりが可笑しくて、小さく息を吐く。
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