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「吉川さん」
もう一度、田所さんがわたしを呼んだ。それをきっかけに、立ち止まった。
怒ってるわけじゃない。
ただ、駆け引きをしたくない。
わかるでしょ?
あの時の言葉が本当なら、もっとストレートに気持ちを伝えて欲しいだけ。
それなのに
「お疲れ。気をつけて」
田所さんの低い声がわたしに届くと、逆方向に足音が響き始める。
ちょっと、帰るつもり?
慌てて振り向くと、ニヤリと笑う田所さんと目が合った。
「あ……」
……やられた。
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