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   マンションの前に着いて、お金を払おうとすると田所さんに遮られて。 押し問答する気力もないわたしは、黙って田所さんに従うことにした。 タクシーから一緒に降りてきたときには、流石に抗議しようとしたけれど。 急激に襲ってきた胃のムカツキに何も言えなくなってしまった。 ……ダメ、気持ち悪い。 自分では大丈夫だと思っていたけれど、足元がふらついてしまう。 「ほら」と田所さんに腰を支えられて、自分の部屋に向かった。 「もう少し頑張って」 そんな言葉に小さく頷くと、自分が情けなくて泣きたくなった。 「何号室?」 「601です」 わたしの腰を抱いたままでエレベーターに乗り込んだ田所さんは、扉を閉めると小さく溜め息を吐いた。
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