5

36/37
前へ
/37ページ
次へ
   「来週の土曜日だったよね?」 『ああ』 さり気なく話を戻すと、静かな相槌が返ってきた。 見えなくても、敦士が今、どんな表情をしているのか、わかるような気がする。 『美咲』 「今、外だから……」 遠まわしに電話を切りたい旨を伝えると、敦士は「わかった」と言ったきり黙りこんでしまった。 意識が携帯から僅かに感じる敦士の息遣いに集中する。 今すぐ、敦士に逢いたい。 そんな言葉が滑り落ちてしまう前に、電話を切らなくちゃ。 そう思うのに、わたしは電話を握り締めるだけで、何も出来ずにいた。 沈黙が二人の距離を示しているように感じた。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

506人が本棚に入れています
本棚に追加