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「なに?どこか行くの?」
「ううん。違うけど……」
口篭ると、ユウはそれ以上、何も訊いてこなかった。
ユウが視ていたテレビ番組が終わるのを見計らって、わたしは帰り支度を始めた。
もう直ぐ、ユウとの楽しい時間が終わってしまう。
そう思うと、寂しくなるけれど。
ユウに暗い顔を見せたくなくて、「用意出来たよ」と無理に微笑んで見せた。
ユウも微笑んで、車のキーを片手に、「じゃ、行こうか」とわたしの手を取った。
自分のマンションに近付くにつれ、ドンドン気分が沈んでいく。
口数も少なくなってしまった。
ユウが運転する車がわたしのマンションの前に静かに止まると、わたしは急いで不審者が居ないか辺りをチェックする。
「どうかした?」
「……最近、この辺りで痴漢が出るみたいなの。
だから、お願い。わたしの部屋の明かりが点くまで、ここで見ていて欲しいの」
「部屋まで一緒に行こうか?」
「ううん。大丈夫」
本当は一緒に来て欲しい。
だけど、一度そうしてしまったら、自分の部屋に一人で居ることが堪えられなくなりそうで。
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