11.

1/31
314人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ

11.

   車をマンションの駐車場に止めたところで、敦士の携帯が鳴った。 敦士は車の外で電話を取った。わたしに背を向けている所為で、その表情は見えない。 でも、わたしはわかっていた。 その電話の相手はマイカちゃんで、敦士は今、困っている。 会話を聞いてはいけないような気がして、そのまま車に留まっていた。 あのとき 敦士が恋人を解消しようと言ったときに、自分の気持ちに気付いていたら、何かが変わっていたのだろうか。 わたしは、今でも敦士の隣で笑っていたのだろうか。 もしも、あのとき……。 「美咲」と、電話を終えた敦士が窓を軽く叩く。 わたしは、笑顔を作って車を降りた。 敦士に続いて、エレベーターに乗り込む。 二人きりの音もない密室に息が詰りそうで、わたしは小さく溜め息を吐いて、視線を足元に落とした。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!