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11.
車をマンションの駐車場に止めたところで、敦士の携帯が鳴った。
敦士は車の外で電話を取った。わたしに背を向けている所為で、その表情は見えない。
でも、わたしはわかっていた。
その電話の相手はマイカちゃんで、敦士は今、困っている。
会話を聞いてはいけないような気がして、そのまま車に留まっていた。
あのとき
敦士が恋人を解消しようと言ったときに、自分の気持ちに気付いていたら、何かが変わっていたのだろうか。
わたしは、今でも敦士の隣で笑っていたのだろうか。
もしも、あのとき……。
「美咲」と、電話を終えた敦士が窓を軽く叩く。
わたしは、笑顔を作って車を降りた。
敦士に続いて、エレベーターに乗り込む。
二人きりの音もない密室に息が詰りそうで、わたしは小さく溜め息を吐いて、視線を足元に落とした。
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