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帰ったら、ユウに怒られるだろうな。
そう思っても、なかなか席を立つ気にはならなかった。
カラカラとロックグラスを回して口に運ぶ。
大きくて丸い氷。ゆっくりと溶けていくそれをただ見ていた。
この空間は、居心地が良すぎる。その所為で、意味も無く泣いてしまいそうになる。
……忘れたい。
そのつもりだったし、もう忘れたと思っていたのに。
どうして、今更思い出したりするの。
「……ノブさん。今、恋してる?」
「急に、どうしたの?」
唐突な問いに、ノブさんが目を見開いた。
「ん、なんとなく……」
余計なことを言ってしまったと、笑って誤魔化しながら、目尻に溜まった涙を指先で拭う。
「美咲ちゃん?」
ノブさんの声が優しくなる。それに動揺して、慌てて手を振った。
「なんでもないの。ごめん……」
なんでもない。ただ酔っているだけ。
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