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涙が頬を伝って、握り締めた手の甲にぽとりと落ちた。
一瞬だけ視界がクリアになって、また歪んでぼやけていく。
呼吸が上手く出来なくて、息苦しい。
身体も自由に動かせない。
まるで水の中にいるみたいだ。
もがけばもがくほど、深く沈んでいく……。
それなのに、どうして彼女の声だけは、はっきり聞こえるのだろう。
彼女の話なんて、聞きたくない。
今すぐここから立ち去りたいのに、わたしは、それすらも出来そうにない。
静かな部屋に彼女の声が響く。
「妊娠が発覚したとき、一人で生もうと決めたの。だから、ユウには言わなかった。ううん、言えなかったの」
そう言って、彼女はわたしに視線を移した。
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