16

8/22
前へ
/22ページ
次へ
   唇を噛んで顔を上げると、神妙な面持ちのユウと目が合った。 「美咲」 その声に胸が苦しくなる。 わたしは、溜め息混じりに小さく息を吐いて、ユウを見詰めた。 こうやって間近でユウの顔を見るのは、久しぶりのことだった。 ちょっと雰囲気が変わったような気がする。 でもそれは、家庭を持ったのだから、当然のことなのだ。 ユウは現実を受け入れ、前へと進んでいる。 わたしだけが、動けずに立ち止まっているみたいだ。 「……じゃ、一分だけ」 そう答えたのは、少しでもいい。自分も前へと進みたいと思ったからだ。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

300人が本棚に入れています
本棚に追加