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   よく冷えたグラスを手に持ち、誰に言うわけでもなく「お疲れ」と呟く。 仕事でもないのに、決まってこのセリフを言ってしまうのは何故だろう。 小さく笑って、ピスタチオを口に運ぶ。 ノブさんのところに、週末通うようになって数ヶ月。 いつの間にか、オーダーしなくてもピスタチオが出てくるようになっていた。 「何か食べる?」 「うーん、どうしようかな」 映画を観ながらポップコーンを食べたお陰で、お腹はあまり空いていない。 それでも、迷ってしまうのには訳がある。 ノブさんが作るパスタは絶品なのだ。 いつだったか、ナプキンにウニソースのパスタのレシピを書いてくれたことがあった。 でも、残念なことに自分で作っても、ノブさんの味を再現するのは無理だった。 時間はまだ、七時前。 お客は、わたしとカウンターの女性客だけ。 忙しくないからいいよね。 じゃあと、口を開きかけたときだった。
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