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「返事は急がないよ。どうしても今すぐ結婚しなきゃいけないってわけでもないからね。ただ……交際は認めてほしい」
お父さんが先輩を見つめて静かに話す。
「ええ、それはもちろん。僕ももう子供じゃありませんから、母には母の人生を歩んでもらえればいいと思ってます」
「そうか。有難う」
「ですから結婚にも反対はしません。むしろ僕は来年の春には東京の大学に進むつもりなので、一人でこっちに残る母が、結婚して誰かと一緒にいてくれた方が安心ですし」
「アナタそんなふうに思ってたの?」
瑞希さんが先輩に聞いた。
「ああ、そりゃ親一人、子一人なんだから、一人で残して東京に行くのは、やっぱり心配じゃないか」
「へぇ~嬉しいわ。有難う」
「バカ。そんなんじゃねぇよ」
先輩は照れ隠しで面倒くさそうに言うと、お皿の上の付け合わせの人参を、フォークで突き刺して口に運んだ。
「そういうことなんで、僕はいつでもいいです。母のことをよろしくお願いします」
先輩はお父さんに向かって、改まって頭を下げた。
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