好きって言えない

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問題集をペラペラ捲っていた先輩が、私の前にそれを開いた状態で置く。 「じゃあ、前に一度間違ってるこの問題。これを解説してあげるよ」 そう言って、ノートを広げてシャーペンを手に取ると、座っている私の斜め後ろに密着したのだ。 先輩の左手の所在は分からないけど、先輩の胸が私の肩を押し、シャーペンを持った右手が私の正面に……。 そして先輩の顔が……。顔が……。くっついてるよ。私のほっぺにくっついてる。 ダ、ダメ……。恥ずかしさと嬉しさで意識が飛びそうになる。 「この問題はね。これをこっちに代入してやればいいんだ」 せ、せ、せ、先輩……。 先輩の声が、耳元で聞こえます。 あ~~~~~し、死ぬ。死んじゃうかもしれない。 「ほら、こうすれば、ここの値は求められるだろ?」 あ~~~神様。有り難うございます。季菜は幸せです。 「ねぇ、聞いてる?」 神様。このまま時間を止めてください。 「ねぇ、季菜ちゃんってば?」 「え?」 「聞いてる?」 「あ、は、はい。ごめんなさい」 ごめんなさい。せっかく教えてくれているのに、まったく聞いていませんでした。っていうか、こんなの勉強に集中なんか出来るわけないよ。 私は真っ赤な顔で、先輩に謝った。
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