利休鼠《りきゅうねず》

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図書室の窓から、今にも降りだしそうな空をちらりと見て、頭の片隅でぼんやりと考えていた。 ……今日は、来ないのかな。 そんな風に呟いて、そんな自分に苦笑いをする。 最初は鬱陶(うっとう)しいと思っていたはずなのに。 いつの間に、こんな風に彼女を、待ってしまっているんだろう。 まるで僕の心のように重く(かす)む空を見上げて、本当にひとつ、ため息を洩らした。 「幸せ、逃げるよ」 そう言いながら、向かいの椅子にぱさりと鞄を置いて、彼女が笑った。 長い髪が揺れて、それに誘われるように僕は小さく呟いていた。 「……来ないのかと思った」 「担任に……呼ばれてたの」 彼女はそのまま窓辺に寄りかかって、僕に横顔を見せたまま言葉を継ぐ。
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