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「なつかしい味だ」 私のつくった角煮を食べた夫が、ぽつりとそういった。 「えッ? 懐かしい? 本当に?」 うん、と夫はうなづいた。 「なんで、そんなに驚くんだ」 「いや」 別に、と私はごまかした。 夫は箸を持った手をテーブルに置いて、天井を見あげた。記憶をたどる時の夫の癖だ。 予想どおり、夫は過去を語りだした。私を追求する気はないようだ。 「いつだったかな。僕がまだ小学生だったころだ。母が角煮をつくってくれたことがある」 天井を見あげていた夫は、テーブルに視線をおとした。その視線の先には私のつくった角煮がある。 「へえ、そうなんだ」 「うん。貧しくってね。あまりいいものは食べさせてもらえなかったんだ」 「何を食べていたの」 夫は少し笑って、芋と大根ばかり食べていたなと言った。 「でも、いつもそれじゃあ不憫だっていうんで、あの日は母がうんと奮発して、角煮をつくってくれたんだ。美味しくて、大喜びしたよ」 その時の角煮と同じ味がする。夫はそう言って、またひと口角煮を頬張った。
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