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「そう」 沈黙した。空気がしんみりとしている。壊してはいけない空気のように思えた。でも私は夫に言わねばならないことがあった。それも今のうちに、だ。 夫には悪いと思ったけれど、私は空気を壊して話題をかえた。 「あした、ちょっと実家に行ってくるから」 「どうしたの?」 「お父さんが」 死んだの、と私は言った。 「えッ」 「事件だったの。強盗に包丁で刺されて」 「なんだって?」 「今日の昼間の出来事だったの。あなたは仕事で知らなかったかもしれないけど……。ニュースでもやってるし」 「そんな」 夫は時計を見あげた。私もつられて時計をみる。八時四十五分。NHKならちょうどニュースをやっている時間だ。 夫はテレビのチャンネルをきりかえた。案の定ニュースが報道されていた。 ――きょう昼、S市在住の無職、Rさんが何者かによって殺害されているのが発見されました。事件は近隣の住人によって通報され、警察は凶器の特定とともに犯人の身元の捜索をつづけています。 「そういうことだから」
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