第1章

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 火炎瓶を作ろうと考えたのは恭介だった。インターネットサーフィンしていた時、たまたま火炎瓶の作り方のページが目に入った。そこで興味を持ったのだ。サイトには、ビンの中にガソリンまたはアルコール度数の高いお酒を入れて、飲み口に布を押し込んでそれに火をつける。そう記されていた。  恭介はビンの中にウイスキーを入れる。生憎布は手に入れられなかったので、飲み口に手で圧縮したティッシュを詰め込んだ。恭介は胸が高鳴った。 「よし、できた」 「ほんとうにするんだよね」  恭介は頷いてみせた。宏はますます不安の色を濃くさせた。恭介はその往生際の悪さにため息をつく。 「もう諦めろよ、ここまできたんだからやるんだよ」  ポケットからライターを取り出す。一呼吸すると、ティッシュに火をつけた。どんな風に燃えるのだろうか。恭介は楽しみで仕方なかった。インターネットで見た動画では火が綺麗に燃え広がっていた。あれくらいにならなくていい。だが、しっかりと火炎瓶らしく燃えてくれるところが見たかった。  ジリジリとティッシュが燃えていく。火が強くなったとき、恭介は空に向かって力任せに投げた。 「あっヤバい」  恭介の予定では頭上か、もしくは駐車場のどこかへ落とすつもりだった。しかし、手元は狂い、火炎瓶は田んぼの中へ落ちていった。田んぼは黄金の稲が一面に広がっている。水は引いていなかった。  ビンは稲の中へ消えて、パリンと割れる音がする。恭介は目を閉じて、体を縮ませた。背筋に冷たいものが通っていく。目を少し開けて目の前を確認した。 「うわ、最悪だ」  連日雨が降っていなかったこともあり、稲は乾ききっていた。みるみるうちに火が広がっていく。 「恭介これどうするのさ」 「とりあえず逃げるぞ」  恭介はカバンを持って、駐車場を走って出ていった。 「やっちまったな」 なにも考えずに走って、駐車場から離れたところにある公園で足を止める。宏は尻から地面に倒れていった。 「だから辞めようって言ったんだよ」 「いいな、これは俺たちだけの秘密だからな、絶対にクラスメイトとかには話すなよ」  恭介は宏と別れると家へ帰った。 「ちょっと、恭介」  夜、ご飯を食べ終わりお風呂へ行こうとしたとき、玄関のほうからお母さんの声がした。 「なに?」
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