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玄関へ行く。恭介は驚いて目を見開かせた。玄関には制服を着た警官が二人いた。警官の一人が笑顔を作って身を屈める。
「そんなに緊張しなくていいよ、この家の近くにある駐車場でちょっとしたボヤがあったんだ、なにか知っていることはない?」
「知りません」
恭介はボタンを押すと鳴き出す人形のおもちゃのように、すぐに答える。家に来たということは、もしかして火炎瓶のことがバレたのか。怖くなった。警官は目を合わせると、離さなかった。なにもかも見透かされているような気がした。恭介も目を合わせる。離してはいけない、そう思った。
「そうですか。ありがとうね。またなにかあればご連絡ください」
警官はお辞儀すると家を出て行った。恭介は安堵の息を吐いた。
「火炎瓶での犯行ですってね、しかも中身はウイスキーらしいわよ、怖いわね」
お母さんは呟きながらリビングのほうへ歩き出した。恭介は氷のように体が固まる。火炎瓶の他にもウイスキーのことが知られている。このままだと自分のこともすぐに見つけ出されてしまうのではないか。そんな気がして、恐ろしかった。
次の日、中学校へ行くと思いのほか知られていないらしく、二年七組の中では火炎瓶のことは噂になっていなかった。学校へ着く前は心配で仕方なかったから、すこし拍子抜けした。
授業が終わり、帰宅部の恭介は一人帰路につく。中学校から遠ざかっていくと段々と中学生の数が減ってくる。恭介の周りにはすでに誰もいなかった。T字路を曲がる。そのときだった。
「山城(やまじろ)くん」
と、不意に後ろから声をかけられた。振り返る。そこにはクラスメイトの桧山(ひやま)がいた。桧山は小走りに恭介に近づいて行く。
「今帰りでしょ? 一緒に帰ろ」
「…う、うん」
恭介は桧山と小学校は一緒だったものの、あまり話したことがない。目鼻はっきりした美人で、小学校の時の修学旅行では恭介含め、同部屋の二分の一は桧山が好きな奴だった。桧山の眉の上には縦に一本小さな傷の跡がある。小学校一年生の時に親とハイキングに出かけて転んだという。
「今日、江頭くんいないんだね」
「宏は今日用事だってさ」
恭介は横目で桧山を見る。
「お前もどうして急に誘ってきたんだよ」
緊張して言葉が詰まる。桧山はフッと笑う。
「なんとなくかな」
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