啼けない金糸雀

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 あれは正式に黒龍隊に入隊した日だった。  初めて金の髪の人を見たのは…。  なんて綺麗な子なのだろうと見惚れて、縋ってきた小さな手と緑の目に魂を奪われた。  だがそれから小さな彼は後宮に入れられた聞いた。  隣国アストゥールから皇王が持ち帰った他国の王子。どうやらその本国では正式に王子とは認められていない存在だったというのは後から聞いた噂でだった。  その彼の故国でも政権交代で彼の父王も母も亡くなったらしいと噂で聞いた時にはどんなに不安で心細いだろうとリウ・ロウも心痛したほどだ。  まだ子供だったのに…。  声の綺麗な、そして歌の上手な彼は宴によく王は座を興じるためだけに連れて来た。黒の髪が並ぶ中に金色に輝く彼は別世界の住人のようだった。  いつも遠くから見るだけ。  皇王のものである彼を臣下であるリウ・ロウはどうする事もできないのが当たり前だ。  眺めるだけが精一杯だ。  だが入隊した日その日に〝金糸雀の方〟と呼ばれていた彼を救ったリウ・ロウは特別入隊時に皇王からお言葉をいただき、順調に出世の道を登っていった。  今は黒龍隊の百人隊長の地位まで漕ぎつけた。  まだ齢30を越したばかりでこれは早い出世だ。勿論自分はそれなりの貢献もしてきたと自負する。  北に位置するウルファとの国境との緊迫した小競り合いの中、リウ・ロウは目に見えて活躍していたはずだ。  実戦を交え、そして相手方との交渉も引き受けた。  そして今回の遠征でもリウ・ロウはかなり逼迫した情勢の中、敵の猛将を一人再起不能にし、そしてこちらが優位を持って交渉し一時休戦にまで漕ぎつけたのだ。  黒龍将軍には千人隊長に推薦が決まっているとそう将軍からお褒めもいただいた。リウ・ロウの家柄も代々軍属続き、将軍を過去に何人も輩出した事のある貴族でそのままうまくいけば将軍も近いとありがたくも評されていた。  さらに皇王から特別下賜が下されるかもしれないと将軍からは耳打ちをされていた。  もしそうならば…とリウ・ロウは密かに心の中で求めていた彼の姿を思い出す。  もう何年も姿を見ていない。後宮からも移されてどこかの塔に入れられているという噂だが、それが本当かリウ・ロウは分からない。  
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