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小ネタ 10
<告白>
△▽△▽△▽△▽△
「わたし、全っ然、気づかなくて、」
「中本さん、それ以上、言わないでください…」
告白、のようなことをして、でも、あんなポカンとされたら、男として見ていないと、言われたも同然だ。
スタート地点にも立っていないのに、ふられたくはない。
「山内さんが言ったみたいに、内緒にしててください」
「…わかりました」
「これまでどおり、またウィスキー飲みにも付き合ってください」
中本さんはすこし迷って、
「…はい」
と小さく答えた。
「じゃあ、僕はこっちなんで、」
道をわかれようとすると、中本さんに呼び止められる。
「渡部さん、わたしのトシ知ってます?」
「詳しくは、知らないです」
「35歳です、」
「そうですか、僕は32歳になりました」
「…おめでとう」
「ありがとうございます」
「また、明日、図書館で」
「はい、おやすみなさい」
成就と失恋の予感が入り混じる。
それが、二度目の告白。
(一度目は、未遂に終わった)
次の告白は、三度目の正直か、二度あることは三度あるのか。
職場で、中本さんが山積みの図書を運んでいた。
「持ちますよ」
僕が引き受けようとすると、「わたし力持ちなので、だいじょうぶです」
と言われてしまう。
中本さんはこういうことがよくある。
自分でなんでもやってしまう。
お酒も強いし、隙がない。
「中本さんの弱点を教えてください」
図書を持たせてもらえないので、となりで歩きながら話しかける。
「弱点、どこでしょうねえ」
真剣にとりあってももらえないし、
「そういえば、最近、山内さん元気がないんですよ、なにかあったんですかねー」
話は変えられるし。
移動書架に下りると、冷房を入れているわけでもないのにひんやりした。
歩くたびに人影を感知して、電気がついていく。
「僕も元気がないんですが、気づいてくれませんか?」
中本さんは立ち止まって僕を見上げる。
「…渡部さん、わたし仕事中は仕事をしたいです」
「仕事中でなければ、話の続きをしてもいいですか?」
「いいですよ、」
怒ったように、返事をされた。
「じゃあ、今夜、いつものバーで待ってます」
「…はい」
そして、まだ僕のものではない後ろ姿を見送った。
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