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「やっべー、これやっべー。クソやっべー」
濡れた紙をドライヤーで乾かそうと無駄な足掻きをする青年。金髪碧眼という、所謂西洋人の容姿ではあるが、全体的に細身である。
中性的とも言える顔を焦りに歪めながら、紙のしわを伸ばそうとぱん、と両端を持って引っ張るが、それが止めになった。
濡れた紙は頼り無く萎れていたため、青年が握っている部分が千切れ、本体が片方にまるまる残った。そして本体から千切れた紙が致命的であり、青年の整った顔が一瞬で引きつった。
俗にいう、やらかしたと言えるものだ。
数秒後、青年は全てを諦め、悟りを開いた表情をしていた。紙を裏返し、黙々とテープで千切れた紙と本体を何事も無かったかのように繕い、ファイルに綴じ、仕舞った。
「これでよし」
「よくない」
後頭部に衝撃が走り、青年は棚に額を強く打ち付けた。丁度ネジが打ち込まれた場所だった為、痛さ倍増である。
なんて事はない、後ろから頭を叩かれたのだ。因みに叩いた本人は初めから居た。一部始終全て見ていたのである。
涙を滲ませながら青年は振り返り、憤然と腰に手を当てる女性を見るや否や、出口に脱兎の如く駆け出した。悪戯がバレた子供の様な逃走である。
だが、青年の逃走劇はものの数秒で終わりを告げた。女性が腕を伸ばすと、衣類が独りでに蠢いたのだ。それはクモの巣状となり、青年に絡み付いた。因みに女性の衣類は伸びただけで、布の面積が少なくなった訳ではない。
青年は体に絡み付いた布をどうにかしようと手を向けるが、女性は青年に何かさせる前に腕を引き、青年を転ばせた。
「降参です」
元々自分が悪いと自覚している為、それほど抵抗する事なく、青年は大人しく降参した。
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