第二話 ラスト・バカンス

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 穢れを知らない若者を、この手でどうにかしてしまいたい。  考えただけでゾクゾクする。ワクワクもする。  鳴沢の邪な想いを余所に、Tシャツのまま戻って来た彼は、良く冷えたハーブティーを淹れてくれた。  標高の高い高原とはいえ、日中の日射しは夏そのもだ。  乾いた喉に、優しい香りをした萌黄色のお茶は素直に体に馴染む。  去年のあの、ホッと癒された感覚が蘇った。  木漏れ日が風に揺れる。  見上げれば透き通った空があり、グラスを傾けるたびに涼やかな氷の音が木陰に響く。  こんなにのんびりした気分は久しぶりかもしれない。  女は今頃ショッピングに興じている。  付き合うのが面倒になって逃げ出して正解だった。  あの女は高原の空がこれほど澄んでいると、気付かないままバカンスを終えるに違いない。  叔父の言うとおり、つまらない女だった。  傍らで緊張している彼は、膝に握りこんだ拳で自分の想いをひた隠しにしてる。  不器用な子だ。  若さがそうさせるだけではないいじらしさを、これほど見せつけられて、何も感じないわけにはいかないと言うのに。  その横顔は、手を伸ばさずにはいられないほど滑らかだ。  化粧のない頬に、触れるだけでは飽き足らず、悪戯心も手伝ってつい唇を寄せた。  可哀そうになるくらいに固まってしまった子に、駆け引きを仕掛けるつもりでさっさと立ち去った。  間違いない。あの子はまだ、誰も知らない。何も知らない。  体も。心も。  穢れない魂に触れた高揚が、鳴沢を満たしていく。  あの子を撫でてみたいと。  それは、まだ誰の足跡も付いていない、真っ白な新雪を踏み荒らす欲望に似て、鳴沢の気持ちを捉えた。  あの女にはもう用はない。
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