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……もう、会うことはないと思っていた。 『学生時代に好きだった人』として、青春の一部分に淡く残る思い出になっていた。 「そうそう、香澄って憶えてる?上野香澄」 フミくんは言いながら、角砂糖をひとつ、カップに落とした。ぽちゃん、とコーヒーのはねる音がする。 「え?香澄?うん、今でもたまに遊ぶよ。そういえば最近会ってないなぁ」 なんで?と尋ねようとしたとき、フミくんが口にしたのは、予想外の言葉だった。 「付き合ってるんだよね、今」 「え……香澄と?」 私はショックを受けた。香澄がそのことを報告してくれなかったからじゃなく、『香澄がフミくんの今の彼女』ということに。 香澄は、お世辞にもあまり可愛いほうではなかった。スタイルがいいというわけでもなく、どちらかというと、仲間内では、お笑いキャラで通っていた子だ。 「香澄と、連絡とってたんだ?」 顔が引きつらないように気をつけながら、私は尋ねる。 「こっち帰ってきたばっかりの時、たまたま入った店で香澄が働いててさ。三ヶ月前くらい前から付き合い始めたんだ」 ペラペラと馴れ初めを語り出すフミくんをよそに、私はぼんやりと、ちょうど半年前に会った香澄の顔を頭に浮かべてみる。キツネみたいに細い目、鼻の横のホクロ……彼女自身もそのことをよくネタにしていたし、恰好いい人は苦手だと、ずっと言っていたはずだ。 ーーなのに、どうして、なんで、よりによって、フミくんと……? そこまで考えて、私ははっとした。 香澄が報告しなかったのは、私がフミくんのことを好きだったから?私に気を遣ったっていたの? 「……今度、三人で飲もうよ」 私は、ほとんど絞り出すように、その言葉を口にした。 それがたぶん正解だったし、それ以外に選択肢はないような気がした。 フミくんは嬉しそうに、そうしよう、と言った。 ーー三人で飲もう。 大丈夫。これでいい。二人の幸せそうな顔を見れば、私もきっと心から祝福できる。その時、私も結婚するんだ、と笑って言おう。
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