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香澄が予約した店は、駅前の、学生時代によく来ていたような居酒屋だった。 個室のしきりは薄く、右からも左からも、狂ったような雄叫びが度々聞こえてくる。 「両隣、すごいね」 と言った私の声も、一瞬でかき消されてしまうほどの騒がしさだ。 「忘年会シーズンだからねー」 と特に気にもしていない様子でメニューを見ている香澄が言い、 「とりあえず、生でいいかな」 フミくんは少し声を大きくして言った。 四人用のあまり広くはない個室で、私は二人と向かい合って座っている。隣り合っている二人の腕が触れる度、私の胸がチクリと痛む。 全然祝福できていないじゃないかと、さすがに自分に呆れてしまう。そして、堂々と思っていることと正反対の言葉がすべり出てくる自分の口にも。 「それにしてもほんとびっくりしたけど、幸せそうで嬉しいよ」 「びっくりさせてごめんねー。って言っても、まだ付き合って三ヶ月なんだけど」 「いいじゃん、一番幸せなときだよー」 私の言葉に、えへへ、と笑う香澄を、素直に可愛いと思った。彼女のことをそんなふうに思ったのは、初めてかもしれない。久しぶりに会った香澄は、驚くほど女の子らしくなっていた。 パンツスタイルをこよなく愛していた香澄が、なんとフレアスカートを履いている。格好だけじゃない。メイクも、髪型も、喋り方まで。 恋ってすごいな、と思った。 私にも恋人がいるのに、なぜだか報われない恋をしているみたいな気分になる。 拓馬を呼んでいればよかった。そうすれば、この状況も、拓馬とのぎこちなさも、何か変わっていたかもしれない。 予定があったかもしれないけれど、駄目でも誘ってみればよかったのだ。
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